皆さんは「漫画を読むこと」についてどのような印象を持っていますか?
「漫画は教育に良くない」と考える方もいれば、漫画以外の本に興味を持たない子どもの場合は「せめて漫画だけでも何も読まないよりは良いかな…」と考える保護者もいるかもしれません。子どもの成長を考えたとき、「漫画を読むこと」をどのように理解し、付き合っていけば良いでしょうか。
今回は、漫画を読むことに関する調査をもとに「漫画の読むことの影響」についてお伝えします。そして、漫画を読むことによる具体的なメリット、よりメリットを享受することができる読み方についても解説します。
「漫画ばかり読んで、他の本を読まない」というお悩みの声はよく耳にします。漫画を多く読むことは、他の本を読む機会をさまたげるのでしょうか。
文部科学省「親と子の読書活動等に関する調査」によると、
””マンガを 151 冊~200 冊所有している児童・生徒は、本を読むことが好きと答えた割合が9割を超えている(92.6%) ””
””マンガを150冊以上所有している児童・生徒は、150冊以下の児童・生徒と比べて、1か月の間に1冊以上の本を読んでいる割合が高い””
という結果が示されています。
この結果を見るだけでは、「漫画を読むことで、漫画以外の本も読むようになる」とは言い切れません。ただ、少なくとも「漫画を読みすぎるせいで、他の本を読まなくなる」というデメリットはなさそうです。
東北大学の大久保紀一朗博士の論文「小学校高学年児童におけるマンガ読書の実態および意識・態度に関する調査研究」によると、以下のように書かれています。
””マンガは今日の児童にとって、役に立つ分かりやすいテキストだと言える。マンガの読み方に関しては個人差が大きいが、内容理解を深めるような読み方を身につけさせるためには、マンガを有用だと実感させることが有効である””
つまり、漫画は「すべての子にとって良い・悪い」と判断するものではなく、子どもの性格や読み方・漫画についての意識によって異なるということです。子どもにとってデメリットがある読み方となってしまう場合もあれば、読み方や保護者の関わり方次第では、メリットを得る取り組みにできるのです。
漫画を読むことによって得られるメリット、そしてメリットを享受できる読み方について解説します。
語彙力とは「単語そのものの意味は理解したうえで、情報を受け取るときや伝えるときに、自由自在にその単語を使うことができる力」ということができます。文部科学省「国語力」の定義の中の、「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」の領域に含まれる能力ですね。
漫画を読むことにより、この「語彙力」を単語の実用例・画像イメージとセットにしながら鍛えられます。
たとえば、「ひきつった顔」「愕然とする」といった表現について、辞書や単語帳であれば文字で意味を知ることができます。小説などであれば、前後の話の流れから使い方まで学ぶことができるでしょう。しかし漫画であれば、前後の話の流れに加えて、実際に「ひきつった顔」「愕然としている様子」を絵で見て理解することができます。
「表情や様子について視覚的に理解・学習できる」というのは、字と絵の組み合わさった漫画ならではのメリットといえるでしょう。
さらにおすすめなのは、単語を学習しているときに「○○のシーンで××がしているような表情だよ」と、漫画の例を出して解説してあげることです。
漫画を読んでいるときに、その都度、単語の解説をしようとすると「ジャマしないで」と言われてしまうかもしれません。しかし逆に、勉強のときに漫画を例に解説するのであれば、子どもにとっても楽しく学べる形になるのではないでしょうか。
「お約束」という言葉は皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
たとえば、「主人公と友人がささいなことでケンカをしてしまう→その後、主人公が何かトラブルに巻き込まれる→友人が助けに来る→最後のシーンで仲直りをする」といったお話は皆さんも見たことあるのではないでしょうか。
物語には、込められる教訓や流れに、ある程度の典型的なパターンがあり、それは漫画・小説などの内容を理解して楽しむために必要となる場合もあります。
この「お約束」を学ぶことができるのは、漫画のメリットといえるでしょう。小説などからも身につけることができる内容ではありますが、字を読むのが苦手で漫画の方が読みやすい子にとっては大きな助けとなります。
もちろん「典型的なパターンを知っていれば話が予想できるので、読まなくて良い」というわけではありません。本を読むときは、そこに書いてあることを理解する、ということは大前提です。
ただ、読書には「お約束」を知っているからこそ、話を予想・期待し、楽しめる」という要素があり、その要素を味わうには、ある程度の「お約束」についての知識も持っておくのが良いでしょう。
おすすめの漫画の読み方としては、保護者も一緒に読み「このあとどうなると思う?」と予想し合ったりすることです。予想が合っているかは気にせず、「どうなるかな」という流れを、過去の経験から推測するということを蓄積していけると良いですね。
「字の本は苦手だが、漫画なら読める」という子も、漫画を起点に少しずつ字の本も読めるようになるケースがあります。
たとえば、好きな漫画の小説版や、設定資料集などであれば手に取りやすいでしょう。そこからさらに、小説版の作者の別の作品、小説版の挿絵を描いている人の別の作品、と興味の幅が広がっていくことも期待できます。
最近では、古典文学の表紙に漫画家さんの描いたイラストを使っているものもあります。もし漫画家さんの漫画を読んでいれば、その文学にも興味を持つきっかけにできそうですね。
漫画は、読むことによってメリットもデメリットもあるでしょう。ただしそれは漫画に限った話ではなく、その他の本や、テレビやゲーム、映画などあらゆることに当てはまります。「良い影響しかないコンテンツ」というものは、そうないのかもしれません。
「漫画」「その他の本」と線引きをするのではなく、あくまで本の一形態として認識してみるのはどうでしょう。そして、子ども自身が楽しみながら漫画とうまく付き合っていける方法を考えてあげられると良いですね。
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執筆者:杉本啓太
参考サイト:
小学校高学年児童におけるマンガ読書の実態および意識・態度に関する調査研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaems/27/1/27_13/_pdf
文部科学省
これからの時代に求められる国語力について
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/kokugo_kadai/iinkai_47/pdf/93622101_10.pdf
親と子の読書活動等に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05111601/001.pdf
メディアとしてのマンガについて考える
http://kiichiro-okubo-lab.net/
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